
森を生かし、森を活かす
-地球のサステナビリティを根底から支える王子の挑戦-
王子ホールディングス株式会社
代表取締役 社長執行役員 CEO
磯野 裕之
私たちの原点:100年超の歴史が育む「王子の森」
森林を健全に育て、その計り知れない恵みを最大限に活かし、社会に新たな価値を届ける。それこそが、希望あふれる地球の未来を創造し、時代を動かしていく私たちのパーパスの主旨です。
1920年から社長を務めた藤原銀次郎が「木を使うものには、木を植える義務がある」と説いて以来、私たちは100年以上にわたり森を育て続けてきました。今や、東京都の約3倍に相当する総面積63.7万haという広大な「王子の森」を保有し、持続可能な森林経営を実践しています。
地政学リスクの高まりや資源・エネルギー供給の不安定化が深刻化する現代において、自社管理下で再生可能な自然資本を事業の上流に有していることこそが、グローバルに展開する当社事業の強靭性(レジリエンス)を支える揺るぎない経営基盤であると、私は確信しています。
私たちはこれまで、この豊かな森林資源から主に紙を創り出してきました。しかし、森の可能性はそれだけに留まりません。例えば、紙の原料となる木材からは、バイオエタノールの他、バイオマスフィルムやバイオマスプラスチックといった製品を作り出すことができます。森林資源を活用して木質由来の製品を生み出し、従来化石資源を用いていた製品を代替していくこと。これは、地球のサステナビリティへ多大な貢献を果たす、当社グループに課せられた崇高な使命です。
「製紙の枠」を超え、新たな価値を創造する事業ポートフォリオ転換
森林資源の持つ可能性は、すなわち当社グループの未来を拓く成長の可能性そのものです。製紙事業が紙需要の減少という大きな転換期に直面する中、私たちはこの変化に先んじ、持続的な成長を確保するために、「森林資源」という原点に立ち返り、大胆な事業ポートフォリオ転換を推進しています。その主軸となるのが、「木質バイオマスビジネス」と「サステナブルパッケージ」です。これは「中期経営計画2027」から本格的に始動した、未来への挑戦です。
木質バイオマスビジネス:
資源価値の最大化と循環型社会の実現
「木質バイオマスビジネス」の中核化に向けて、まず国内では、王子製紙米子工場において木質由来糖液・エタノールのパイロットプラントを立ち上げ、事業化への歩みを進めています。さらに海外では、先進的なバイオリファイナリーモデルを確立しているオーストリアのAustroCel社を2026年1月にグループに加えました。
AustroCel社は、単に木質原料から衣料用溶解パルプ(DP)を生産するだけでなく、バイオエタノールや土壌保水材となるハイドロゲルなどを製造しています。さらに、周辺地域へバイオエネルギーを供給するなど、森林から生まれる木材資源の価値を最大限に活用する「循環型廃棄物ゼロモデル」を確立しています。この先進的なノウハウを当社グループ全体へと展開していくことは、「木質バイオマスビジネス」へのシフトにおける極めて大きな一歩となるでしょう。
サステナブルパッケージ:
新市場を拓き、資源循環を加速する
事業ポートフォリオ転換のもう一つの主軸は「サステナブルパッケージ」です。環境規制が先行する欧州では、2024年にグループに加わったWalki社を通じて、高度な環境技術を取り込むとともに、欧州の最新規制や市場動向をいち早く捉える体制を整えました。この知見をグループ全体で活用し、競争力強化につなげます。
また、当社にとって新たな分野であった液体紙容器事業では、2023年にグループに加わったイタリアのIPI社を基盤に、成長著しい東南アジア市場への展開を加速。2025年12月にはベトナムに「Oji Liquid Pak」を設立し、常温長期保存を可能にするアセプティック容器用加工紙の新工場建設を決定しました。
さらに重要なのが、製品供給にとどまらない資源循環の構築です。環境規制の強化が進むベトナムなどの市場において、日本で実績を積んだ難処理古紙リサイクル「Renewa」の技術や協業ノウハウを活かし、現地の顧客や地域社会と連携しながら、持続可能な液体紙容器の回収・リサイクル体制の構築を進めていきます。
これらの多岐にわたる取り組みにより、「長期ビジョン2035」で掲げる事業ポートフォリオ転換、そして海外パルプ市況等に左右されにくい収益構造への転換は、着実に前進 しています。
難局を乗り越え、確実な成長軌道へ

2025年度の決算は、営業利益ベースでは当初目標の半分程度にとどまり、決して満足できる結果ではありませんでした。人件費や物流費などのコスト増大に加え、価格改定の浸透に時間を要したことが主な要因です。しかし、この経験から得た教訓を糧に、2026年度から「中期経営計画2027」の最終年に向けて、以下の重点取り組み項目を掲げ、目標達成への道筋を明確にしています。
「製品の差別化」「高付加価値化の加速」「価格修正の徹底」「安定操業と確実な製品供給」「さらなるコストダウンの追求」「低収益事業の構造改革」。
特に重要なのは、この低収益性事業の構造改革です。ニュージーランドのOji Fibre Solutionsの板紙事業と豪州パッケージング事業からの撤退、国内でのネピア生産体制再構築といった効果が、2026年度には顕在化します。収益性などを一貫した判断基準に基づき、グループ横断的に検討を継続しており、2026年度中にも今後の方向性を明確にし、必要な改革については実行をためらいません。
また、事業ポートフォリオ転換を支える資産のスリム化は、2025年度において保有株式縮減・不動産売却ともに計画通りに進捗しました。子会社所有物件を含むグループ全体の非コア資産を洗い出し、2026年度も賃貸不動産を含めた売却を検討中です。引き続き着実に資産のスリム化を実行し、「中期経営計画2027」で掲げるROE8%を確実に達成するとともに、PBRの改善に繋げていきます。
変革を支える「人財」の力と、グループの結束
当社グループの創業を提唱した渋沢栄一は、「事業を行うには資本とともに人財も必要である」と説きました。私自身も、「人財の力を最大限に引き出すこと」こそが、変革を成し遂げる上で極めて重要だと考えています。
現在、王子グループは世界各地で事業を展開し、多様な国籍や経験を持つ人財が活躍する真のグローバル企業となりました。これからはグループ全体の総合的な人財力を一層高めていく必要があります。特に、木質バイオマスビジネスにおいては「木材からどのようなものが作れるのか」という知識やノウハウが、既存事業だけではまだ十分に蓄積されていません。私たちが目指す事業ポートフォリオ転換を実現するためには、新たにグループに加わった会社を含め、王子グループ全体の知識・ノウハウをいかに有機的に活用していくかが鍵を握ります。
そのために、パーパスの浸透を含めたグループ一体感の醸成がますます不可欠です。2025年10月に王子グループの新たなグローバルブランドマークを制定したのも、この一体感の醸成が目的の一つです。私が本日着用しているネクタイにもその3色をあしらい、世界中の従業員が理念に共感し、協調しながら、高い成果を生み出してもらいたいという思いを込めています。
また、私自身や各カンパニーのプレジデントが現場に赴き、従業員と直接対話を行うタウンホールミーティングなどの活動を、ここ3年ほど積極的に実施してきました。この取り組みが風通しのよい職場づくりに貢献している手応えを感じており、それは従業員エンゲージメント指数の向上という形でも明確に表れています。
一方で、AIの急速な発展・普及を受け、人財の育成や活用のためにもDXの積極的な推進が求められます。定型的な業務はコンピュータシステムが効率的に担い、人間は空いた時間をよりクリエイティブな仕事に充てる。また、人手不足が続く操業現場では、AIを活用した一定レベルの自動化も不可欠となるでしょう。こうしたデジタル化を牽引する人財育成にも、私たちは継続して取り組んでいきます。
経営基盤を盤石にするガバナンス改革
コーポレートガバナンス強化の面では、2025年4月にCxO体制を導入しました。各カンパニーが「縦」の軸だとすると、そこに横串を通し、専門的な見地からグループ全体を一貫して俯瞰する体制です。CEOが中心となってグループ全体の視点から重要な判断を下せる執行体制こそが、迅速かつ的確な意思決定、そして全体最適な経営を実現するために必要であると考えたからです。
CxO体制発足から1年あまりが経過し、低収益性事業の整理や工場の再編などについて、一貫した基準での意思決定ができる体制が整いつつあります。私はCEOとして意思決定に責任を持つ立場ですが、その前提として、常に多様な意見に耳を傾けたいと願っています。経営会議においても、多角的な意見を引き出し、徹底的に議論を尽くした上で最終判断を下す。結果的にそれが、より的確で迅速な意思決定へと繋がり、ひいては企業価値向上に貢献すると信じて、経営に取り組んでいます。
こうした執行体制の強化にあわせ、取締役会は執行に対する厳正な監視・監督に当たるという役割分担も明確にしました。取締役会に関しては、2026年6月に社内取締役と社外取締役の人数が同数となり、さらに社外取締役が取締役会議長を務める体制へ移行するなど、ガバナンス強化を弛まず推進しています。ガバナンス改革に終わりはありません。私たちは、常に最善を追求し続けます。
こうした執行体制の強化にあわせ、取締役会は執行に対する厳正な監視・監督に当たるという役割分担も明確にしました。取締役会に関しては、2026年6月に社内取締役と社外取締役の人数が同数となり、さらに社外取締役が取締役会議長を務める体制へ移行するなど、ガバナンス強化を弛まず推進しています。ガバナンス改革に終わりはありません。私たちは、常に最善を追求し続けます。
地球のサステナビリティを根底から支える挑戦

2025年9月、王子硬式野球部が都市対抗野球大会で21年ぶり2回目の優勝を果たしました。チームが掲げたスローガンは「超えろ~全ては5連勝のために~」。前年大会の悔しさを乗り越える強い思いのもと、チームは「超えろ」という言葉で一丸となり、見事に栄冠を掴み取りました。
王子グループが今、まさに大きな転換期に差し掛かる中、事業ポートフォリオ転換という壮大な目標を実現するためには、野球部と同様に私たちも「製紙事業の枠」を「超える」ことが必要です。ただし、この強い思いは、これまで当社グループを支えてきた製紙事業を決して否定するものではありません。私たちは、紙の可能性をさらに広げると同時に、木質資源を起点とする新たな価値創出にも果敢に挑戦し続けます。
この事業ポートフォリオ転換は、当社グループが長年培ってきた資源循環の歩みを、さらに高度化していくことに他なりません。持続可能な森林経営による資源の育成から、バイオリファイナリー技術を活用した資源価値の最大化、さらにはサステナブルパッケージと回収・リサイクルによる循環型社会の実現まで ―森林資源を起点とするこれらの取り組みをバリューチェーン全体で有機的につなぎ、発展させ、その価値を最大限に高めていきます。
「森を生かし、森を活かす」。この言葉には、私たちの揺るぎない決意が込められています。
木々を育て、地道に森を「生かす」ことは、生物多様性の保全やCO2の吸収、豊かな水源環境の涵養、そして土砂災害の防止といった環境保全と国土強靭化をもたらします。それは同時に、林業や関連産業を通じた地域経済の再生と発展という、「地区レベル」の豊かな基盤を確固たるものにします。
そして、その森の恵みを最大限に「活かす」ことは、社会をこれまでの化石資源依存から脱却させます。再生可能な資源の地産地消を推進することは、エネルギーや素材の海外依存度を下げることとなり、国家や「地域レベル」における堅牢な経済安全保障へと直結するのです。
私たちが地区レベルで地道に森を生かし、地域レベルでその資源を活かすこと。この地に足の着いた活動の集積こそが、「地球レベル」の喫緊の課題に対する最も確かな答えとなります。すなわち、「カーボンニュートラル」の達成、「ネイチャーポジティブ」の実現、そして「資源循環型社会」の構築という、3つのグローバルなサステナビリティへの多大な貢献です。
これこそが、まさに「地球のサステナビリティを根底から支える王子の挑戦」に他なりません。
王子グループは、この壮大な変革の道のりを決して諦めることなく突き進み、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を力強く両立してまいります。私たちは、未来の地球を拓くパートナーとして、ステークホルダーの皆様と深く共鳴し、ともにこの挑戦を成し遂げていけることを心から願っています。
デジタルが情報の保存や共有を効率化する一方で、紙に向かって書き、思考を巡らせるプロセスは、人間の深い創造性を呼び起こすかけがえのない源泉です。
紙はデジタルと対立するものではなく、互いの特長を補完し合うことで、より大きな価値を創造できるパートナーです。
変化の激しい時代だからこそ、人間ならではの思索を支える素材として、紙はこれからも極めて重要な役割を果たし続けます。